脱アフガンで加速する米軍再編

 

「アフガン陸軍が戦意を失っていたのは事実だ。しかし、それはパートナーのはずのアメリカに見捨てられた思い、なによりバイデン大統領の(撤退)発言から数カ月続いた、我々に対する軽視と不誠実がもたらしたものだ」

 アフガニスタン陸軍の元中将サミ・サダトゥ氏は、米紙ニューヨークタイムズ(8月25日付)への寄稿文でこう述べ、米国に「裏切られた」口惜しさをにじませた。「英国防衛アカデミー」を卒業したサダトゥ氏は、アフガン南部の激戦地で苦戦を強いられながら最後までタリバンと戦った。

 カブール崩落後、バイデン氏は「アフガン軍自らが戦う意思のない戦争で、米国の軍隊が戦うことも死ぬこともできない」と述べ、敵前逃亡をしたアフガニスタンの軍と政府を強く批判していた。しかし、実際の戦場で指揮をとったサダトゥ氏の認識は異なる。

 彼はアフガン軍が総崩れになった原因を3つあげた。トランプ政権が昨年2月のタリバンとの協議で、米軍の撤収を既成事実とし、劣勢だったタリバンが勢いを取り戻した▽戦闘継続に不可欠な米民間軍事会社による兵站および整備支援の中断▽ガニ政権に蔓延する腐敗が招いた軍指揮系統の乱れ。そして、アフガニスタンの現状を無視したバイデン氏の拙速な撤退発言が、事態を急速に悪化させたというのだ。なかでも兵站支援の中断は致命的だった。1万7000人いた軍事会社スタッフが7月までに撤収し、ハイテク兵器のソフトウェアや兵器システムがまともに使えなくなったからだ。骨抜きの軍隊ではタリバンに勝てるはずがなかった。

 それでも撤退は正しかったとバイデン氏は主張し、「米国の国益にならない紛争に関わってきた過去の過ちを繰り返さない」と国民に訴えた。だが、この発言は同盟国の不信を招き、ジェイク・サリバン大統領補佐官が「(米軍は韓国や欧州に)内戦ではなく潜在的な外部の敵のため駐留しており、アフガニスタンとは根本的に異なる」と火消しに走った。韓国の場合、外部の敵、つまり北朝鮮の挑発を抑止するため在韓米軍は存在していることになる。

 ところが8月末、米下院軍事委員会の2022会計年度国防権限法案(NDAA)で、在韓米軍の「削減」を制限する条項が取り除かれ、憶測を呼んだ。この条項は、在韓米軍の削減を公言するトランプ前大統領の一方的な決定を阻止するため、同委員会が当時のNDAAに「在韓米軍の兵員数は2万2000~2万8500人の水準を下回ってはならない」と歯止めをかけたもの。トランプ氏は当時、米朝首脳会談を演出する一方で、韓国を安全保障に「ただ乗り」していると批判。在韓米軍の撤退までちらつかせ、米軍駐留経費の韓国側負担を5倍に引き上げる無茶な要求をした。バイデン氏はこれを「ゆすり」と表現し、米韓の同盟関係を回復させた。その削減制限が削除されたのだ。その理由を、同委員会は「国防省が任務達成に必要な兵力を判断し、在外米軍の編成を行うため、在韓米軍の兵員数を明示しなかった」と説明した。

 米国防省はバイデン氏の大統領就任直後から、在外米軍の態勢見直しを図る「グローバル・ポスチャー・レビュー(GPR)」の検討に入り、近々、結果が公表される見込みだ。中国に対抗するため、インド・太平洋地域を一つの戦区に拡大させ、在日米軍や在韓米軍も域内の状況に応じ、より柔軟に活用させる見通しだという。

 かつてない米軍再編が進む中、国益にならないアフガニスタンは早々にお払い箱にされたわけだが、逆に、米陸軍の在外基地で最大規模の「キャンプ・ハンフリーズ」を抱える在韓米軍、5万人以上の米軍兵士が駐留する在日米軍の役割は一層強くなりそうだ。米中が衝突すれば紛争に巻き込まれる。域内の安定を乱す中国には断固とした姿勢を示すべきだが、国益とは何なのか、もう一度見直す必要がある。