統一教会とは何なのか

 統一教会については過去に何度か記事にしたことがあるので、ここで紹介することにした。少し内容が古くなっているが、教祖・文鮮明(ムンソンミョン)亡き後の教団の理解に少しでも役立てばと思う。

 ちょうど山上徹也容疑者の母親が入信した98年頃(教団側の説明)、筆者はたまたま知り合った女性信者の救出に関わったことがある。プライバシーのため詳しいことは書けないが、親に内緒で合同結婚式に参加して韓国人男性と結婚していた彼女は、日本で「脱会」を真剣に考え始めていた。3年ぶりに親に再会することもできた。ところが教団の仲間と接した直後から音信不通になる。その時の苦い経験から、この異様な宗教団体を調べる気になったのかもしれない。

 統一教会は、数知れない家庭崩壊の上に富を築き上げてきたことが批判される宗教団体だ。言うまでもなく、被害者をもっとも多く出してきたのが日本。見当違いな逆恨みにより不条理な死を遂げた安倍元首相の冥福を祈る一方、教団を公然と利用してきた日米韓の政治家たちの脇の甘さも指摘しないわけにはいかない。

 山上容疑者は「教団の関係者に安倍元首相が寄せたメッセージを見て、殺害を決意した」と供述しているという。メッセージとは、昨年9月12日に「世界平和統一家庭連合」(1997年に「世界基督教統一神霊協会」(統一教会)から改名)と関連団体「天宙平和連合(UPF)」が共催した「シンクタンク2022 希望前進大会」に寄せられたビデオメッセージのことで、トランプ前大統領も同様の基調演説を行っている。

 このイベントは「神統一韓国のための連帯および韓半島平和サミット組織委員会発足」というテーマで開催され、海外の大物政治家が賛辞を送っていることから、韓国メディアもニュースとして報じている。さらに今年2月に開かれた同委員会のイベントを、公営放送KBSが午後のメインニュースで流したのを見て驚いた(「韓半島平和会議、‟平和統一支持”宣言」<https://news.kbs.co.kr/news/view.do?ncd=5394987>)。

 同委員会の共同組織委員長を務めるフンセン・カンボジア首相と元国連事務総長潘基文(パンギムン)が会場に現れ、訪韓したマイク・ペンス前米国副大統領まで舞台に登場した。この他にも海外から多くの賓客が招かれ、日本からは元環境相原田義昭の姿もあった。イベントの中心人物は統一教会で神格化が一気に進む韓鶴子(ハンハクチャ)総裁。教団が世界平和をリードする有力団体という印象を与えかねない、問題をはらんだ報道だった。

統一教会のイベントに登場したペンス前米副大統領。KBSニュースより



 

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統一教会文鮮明氏 「全米・寿司ビジネス」の剛腕 (『SAPIO』2008年3月12日号)


「トゥルー・ワールド・フーズ」に関しては、最近になり『ニューヨークタイムズ』が「The Untold Story of Sushi in America」(2021年11月7日付)と題して詳しく報じている。

www.nytimes.com

 

 

統一教会が貪る「2018年平昌五輪」(『新潮45』2013年11月号)

 ソウルから約六〇キロ北東の京畿道加平群雪岳面松山里の一帯に、「世界平和統一家庭連合」(一九九七年に「世界基督教統一神霊協会」から改名)、あの統一教会が建設した広大な聖地がある。八〇〇万坪におよぶ敷地に、ルネッサンス様式の白亜の「天正宮博物館」をはじめ、「天宙清平修練院」、「清心国際病院」、「清心神学大学院」、そして昨年三月に完成した二万五〇〇〇人収容可能の「清心平和ワールドセンター」が次々と姿を現す。
 八月二二日午後、その一角にある教団の高齢者福祉施設「清心ビレッジ」のロビーで、同教団の日本人牧師に近づいた五〇代の日本人女性が、五リットルのプラスチック容器にいれたシンナーを牧師と自分にかけ、ライターで火をつけた。二人はすぐ病院に搬送されたが、ともに大やけどを負い意識不明の重体に陥った。
 女性は合同結婚式で韓国人男性と結婚したが、数年前に離婚し、韓国で一人暮らをしていたという。
 韓国在住の日本人女性信者は約一万人。布教目的で嫁不足の農村に嫁がされるケースが多く、各地で問題が頻発している。昨年八月には、生活苦と介護疲れから韓国人の夫を絞め殺す事件も発生している。
 しかし、今回の事件はまったく別の意味で注目された。事件翌日、清心平和ワールドセンターで国内外の信者約二万人を集め、教祖文鮮明(ムンソンミョン)の一周忌追悼行事が予定されていたからだ。
 文鮮明は昨年九月に死亡。その数年前から、教団は教祖の息子たちによる後継者争いが原因で分裂し、脱会者が相次ぐ事態に直面していた。日本人女性の犯行も、教団の分裂と関係があるのではないかと疑われたのだ。

王子の乱

 文鮮明は二三歳年下の韓鶴子(ハンハクチャ)(70)との間に七男六女をもうけた。いずれも米国育ちで、薬物依存症の長男が心臓麻痺で死亡、高校生だった次男が深夜のハイウェイ運転中に交通事故死、六男がラスベガスのホテルから飛び降り自殺するなど、不運が続いた。そして、事実上の長男となった三男の文顕進(ムンヒョンジン)(44)が九〇年代半ばに米国から帰国し、父親公認の後継者と目されるようになった。
 当時、顕進の岳父の郭錠煥(クァクジョンファン)は、統一教会の企業群「統一グループ」を統括し教団資産を管理する「世界基督教統一神霊協会維持財団(統一財団)」の理事長の座にあり、文鮮明に次ぐ教団ナンバー2の実力者だった。だが、九七年に発生したアジア通貨危機の影響で、統一重工業や韓国チタニウムなどグループの主力四社が相次いで経営破綻。米国で銃器会社を経営していた四男の文国進(ムングッチン)(43)に理事長職を譲ると、盤石に見えた後継体制が一気に揺らぎ始めた。
 教団経営の実権を握った国進は、米国から呼び寄せた七男の文亨進(ムンヒョンジン)(36)を宗教指導者に祭り上げ、兄の顕進に対しては、米国に本部を置く「統一教会世界財団(UCI)」の会長職以外の肩書はすべて奪い取った。韓国で「王子の乱」と呼ばれるこの骨肉の戦いに敗れた顕進は、UCIを基にワシントンで設立した「GPF財団」という宗教団体を通し、統一教会と袂を分かつことになる。
 顕進が率いるUCIは全米の鮮魚卸売市場を独占する「トゥルー・ワールド・フーズ」を含め六つの会社を傘下におく「トゥルー・ワールド・グループ」(本社ニュージャージー州エリザベス)の実質的オーナーである。また、ソウル江南地区にあるマリオットホテルおよび隣接する複合施設「セントラルシティー」の運営権も持つ(昨年一〇月にサムソン財閥系「新世界百貨店」に合わせて約九〇〇億円で売却)。さらに、米国の航空会社「ワシントンタイムズ航空」を傘下に収めるが、同社は母親の韓鶴子が理事長を務める「世界平和統一家庭連合宣教会」を相手に約一八億円を横領したとして、告訴までしている。
 一家の泥沼の財産争奪戦はこれにとどまらない。最大の争点となっているのが、国会議事堂など国の中枢機関が集中するソウル汝矣島にある統一財団の土地だ。LG電子本社とMBC放送局に挟まれた都心一等地にある一万四〇〇〇坪の土地は、日本で霊感商法の被害が続出した七〇年代に文鮮明が購入した曰くつきの物件だ。

建設が中断した汝矣島の工事現場(当時)。2013年撮影

 李明博政権時代、この土地に隣接した場所で「ソウル国際金融センター」(56階)の建設が決まり、ソウル市が同地域を「国際金融中心地」に指定。再開発の目玉となるのが、教団の土地に建設される二棟の超高層ビル(72階と56階)と複合商業施設だった。
 顕進の後ろ盾であった郭錠煥が統一財団理事長だった〇五年、教団は海外のデベロッパーとの間で、この土地の九九年間の地上権設定契約を結んでいる。ところが、顕進失脚後、契約相手の金融投資会社「Y22」の大株主がUCIであることが判明し、国進は狼狽した。契約無効を訴え一〇年一〇月に地上権登記抹消訴訟を起こし、すでに四分の一の工程を終えていた工事を中断させるのだが、逆に、Y22側に工事中断による損害賠償訴訟を起こされ、窮地に追い詰められた。
 国進は理事長就任直後の〇六年に、Y22と契約内容を微修正する再契約を結んでおり、裁判に勝つ見込みはない。一審、二審で統一財団敗訴の判決が下され、近く最高裁が同様の判決を下す見込みだ。損害賠償額は約五〇〇億円にのぼると見積もられ、教団は巨大な負債を課されることになりそうだ。

認知症を患うメシア

 組織を分裂させた息子たちの財産争いが続くなか、教団に君臨する教祖の文鮮明はいったいなにをしていたのか。先述の地上権登記抹消訴訟が起こされる四カ月前、滅多に姿を現すことのない文鮮明の動画が一時ネットに流された。
 聖地、天正宮博物館で暮らす文鮮明をとらえた一五分の映像には、教祖が七男の亨進を後継者に指名する「宣布文」を書く様子が映し出されていた。
 だが、九〇歳の文鮮明認知症を罹っているようにしか見えず、〝メシア〟と崇められた姿とはほど遠い。その教祖に向かって、夫人の韓鶴子がこう詰め寄る場面がある。
「(統一教会)世界本部会長(亨進)だけに従わなくてはならないと書かれないのですか? それがお父様(文鮮明)のお言葉ではありませんか? 統一の食口(シック)(信者)はみな、世界宣教本部の公文の指示事項だけを認めよとサインしてくださること……、イヤですか?」
 その宣布文に、文鮮明は拙い文字でこう書き記していた。
<天宙平和統一連合本部も絶対唯一の本部だ。その代身者、相続者は文亨進だ。その他の人は異端者で爆破者である。以上の内容は父母様の宣布文である>
「異端者で爆破者」とは、教団から〝サタン〟と宣言された三男の顕進と郭錠煥を指すようだ。また、文中の天宙平和統一連合は、文鮮明が〇五年に米国で設立した統一教会の下部組織のことで、正式名称に「統一」の文字は入らない。だが、傍らにいる夫人は意に介さず、亨進に与えられた最高位職である「世界本部会長」の文字を書くよう何度も催促していた。文鮮明が「なぜそんなにしつこく言うのか、え?」とくってかかったり、夫人が呆れた表情でため息をつく姿まで映し出された。
 要するに夫人は、弟の亨進の宗教的権威を確立するため、教祖直筆による後継者指名の公文を書かせていたのだ。宣布文は教団のホームページに掲載され、その動かぬ証拠として動画がネットに流されたのだ。教団関係者によると、撮影したのは亨進の妻らしい。
 動画が撮影された二年後の昨年九月、文鮮明は老衰で死亡。韓国に残された資産は少なくとも約一〇〇〇億円と見積もられる。遺言となった宣布文もあり、国進と亨進による二人三脚の教団運営が始まるかに見えた。
 ところが、教祖が死んだ直後、権力構造に再び異変が起きる。教団が最高指導者の亨進を米国に帰国させたうえ、すべての役職を解いて失脚させてしまうのだ。指示したのは、宣布文で亨進を後継者に指名させた母親の韓鶴子とみられる。
 解任された後、彼は信者に宛てた手紙で、その時の心境を打ち明けている。
「真のお母様(韓鶴子)は、私たちに米国教会の責任を持つ地位(米国統一教会総会長)から引き下がるよう指示されました。私と妻は、解任事由に対してなんの説明も案内もなく解任指示を受け、少なからず驚きました。この度の辞任要求は、真のお父様(文鮮明)が亡くなってから三回目のものでした。こうした決定に傷つかなかったと言えば嘘になります」
 亨進が解任された翌月の今年三月、統一財団理事長兼統一グループ会長の国進も電撃的に解任される。汝矣島の土地をめぐる訴訟の責任が、表向きの解任理由だ。
 結局、三人の息子が一掃される形で後継者争いは終結したが、母親が自分の息子たちを追放した理由がはっきりしない。
 今年になって教団を脱会した元信者によると、解任劇で主導的役割を果たしたのは、文鮮明に四〇年間奉仕した金孝律(キムヒョユル)(家庭連合宣教会財団副理事長)という人物を中心にした古参幹部グループだという。金孝律はワシントンタイムズ航空の横領事件で顕進が起こした裁判の被告でもある。元信者が声を潜めて語る。
文鮮明が死去する直前、四男と七男が、金孝律に後継に関する遺言を聞き取るよう頼んだらしいのですが、逆にその事実を暴露された。それが彼らの失脚の直接的な原因になったといわれます。三男の顕進を失脚させたのも彼だったようです。実は、文総裁は金孝律という人物を、あまり信用していなかったと複数の幹部が証言しています。彼が近しかったのは夫人の韓鶴子です。教祖なき教団で、今後、信者が増える見込みはないと考えた古参幹部らは、韓国語もろくにできない息子たちより、夫人を飾りに教団経営を維持するしか道はないと判断したのでしょう」
 企業論理を優先し、教祖の意向を無視して実権を握った金孝律グループ。「王子の乱」に次ぐ彼ら「宦官の乱」により、図らずも韓鶴子が最高指導者の地位に躍り出た。冒頭の追悼行事に息子は一人も参加できず、今後、彼らの復帰が認められることもなさそうだ。

五輪会場となるスキー場

 国進が在職中に断行したリストラにより、二二社に削減された統一グループも、今は一三社しか残っていない。飲料水の「一和」や自動車部品製造の「TIC」、建設業の「ソンウォン建設」や「一信石材」などだが、そのなかで将来を有望視されているのがレジャー産業の「一尚(イルサン)海洋産業」と「龍平(ヨンピョン)リゾート」だ。一尚海洋産業は、韓国南海岸にあるリゾート地の麗水で昨年開催された万国博覧会(海洋博)に合わせ、韓国政府が「国際海洋観光団地」に指定した一帯で、高級ホテルやゴルフ場の「ジ・オーションリゾート」を運営している。
 教団がレジャー産業に本格的に乗り出すのは、韓流ドラマ『冬のソナタ』のロケ現場になった龍平リゾートを買収してからのことだ。〇三年に親会社の経営不振で九割以上の株が売りだされた時、統一グループの「世界日報社」が約一八〇億円でまるごと買い取り、後に統一財団が大株主になった。韓国政府が招致を進めていた平昌冬季五輪で、同リゾートが会場になることを見越しての先行投資だったが、一八年の開催決定により、土地の値上がりによる宿泊施設の分譲販売などが伸び、今年上半期だけで約二五億円の売上をあげた。
 平昌冬季五輪の主な競技は、地元の江原道が開発した「アルペンシアリゾート」で開催されるが、すぐ近くの龍平リゾートでもハイライトとなるアルペンスキー大回転や回転が行われる。韓国で最初にリフト施設を整備した龍平リゾートには、海抜一四五八メートルの頂上から滑降する九面のスロープがあり、ゲレンデには高級ホテルやコンドミニアムが建ち並ぶ。
 平昌冬季五輪の経済効果は約五兆円と見込まれ、その最大の受益者は統一教会だ。失脚前の亨進は経済紙とのインタビューでこう語っていた。
「龍平リゾートやジ・オーションリゾートなど、統一グループが運営するレジャー施設の統合経営を通して、世界的水準の総合リゾート網を構築する」

天正宮。2008年撮影

 万博特需に次ぐ五輪特需。教団が狙う次なるレジャー利権は、どうやら北朝鮮にある。
 今年七月二七日、北朝鮮で自動車を生産する統一教会系企業「平和自動車」の朴相権(パクサンゴン)社長が、平壌で開かれた「戦勝節(朝鮮戦争休戦協定日の北朝鮮側呼称)」六〇周年の式典に招かれ、金正恩(キムジョンウン)第一書記と面会する異例の待遇を受けた。式典参加後、朴社長は北朝鮮東海岸の元山市近くにある馬息嶺(マシクリョン)(海抜七六八メートル)で建設が進むスキー場を訪ね、写真やビデオを韓国メディアに紹介している。
 今年二月に実施された三度目の核実験以降、北朝鮮は休戦協定白紙化宣言や開城工業団地の稼働中断など、挑発をエスカレートさせてきた。戦争も辞さない強硬姿勢の一方で、国内では大規模なスキー場の建設をしていたわけだが、その狙いがどこにあるのか、北朝鮮の意を汲んで動く朴社長に注目が集まった。なにしろ朴社長は、この二〇年間に二一五回も訪朝するほど北朝鮮指導部からの信頼は厚い。
 今回の訪朝の二カ月前、北朝鮮最高人民会議常任委員会で「経済開発区法」が制定されている。経済特区とは別に、金剛山白頭山、七宝山、開城、平壌、元山の六つの地区を観光特区に指定し、外国人観光客を誘致するのが狙いだ。なかでも金正恩が熱を入れているのが元山(ウォンサン)特区で、その中心となる施設が馬息嶺スキー場である。
 朴社長によると、元山特区開発には朝鮮人民軍兵士三〇万人が動員され、元山市内にある空軍の葛麻空港もすでに民間転用され、名を「元山空港」に改めたという。
 幅四〇~一二〇メートルのスロープ四面にホテルも併設される馬息嶺スキー場は、年内完成を目指し急ピッチで工事が進んでおり、八月末に日本の一部メディアにも現場が公開された。その数日後、北朝鮮の国際五輪委員会(IOC)委員が、馬息嶺スキー場で平昌冬季五輪の南北分散開催が可能だと発言するに至り、北朝鮮の描くシナリオが次第に明らかになってくる。
 サッカーワールドカップと異なり、オリンピックはIOC規定により開催国の都市で行わねばならない。だから、南北共催や分散開催はあり得ない。ただ、平昌冬季五輪が開催されれば、ついでに馬息嶺スキー場の国際的な知名度があがるのは間違いなく、観光客誘致も夢ではない。
 平昌の二月の降雪量は過去一〇年間の平均で三七・一センチ。長野五輪の会場になった白馬村に比べるとかなり少ない。また、地球温暖化の影響で降雪量は毎年減少傾向にあり、〇九年は平均を一〇・八センチも下回った。同じことが開催年に起きないとも限らないので、韓国気象庁ヨウ化銀などを使った人工降雨の実験を繰り返しているが、成功率はあまり高くないようだ。
 それに比べ約二〇〇キロ北にある馬息嶺には雪不足の懸念がない。馬息嶺は日本統治時代の一九三〇年、日本人が朝鮮で最初のスキー選手権大会を開催した場所としても知られ、恵まれた立地条件は推して知るべしである。分散開催が無理でも、南北宥和が進めば、韓国人スキー客が押し寄せてくるのは明らかだ。
 北朝鮮は馬息嶺スキー場を避暑地としても活用し、年に二五〇日運営する計画らしい。一人当たりの入場料五〇ドル、一日の訪問客を平均五〇〇〇人と想定しているので、年間売上はざっと六二五〇万ドルに達する。
 開城工業団地で働く労働者約五万三〇〇〇人の年間賃金から当局が横取りする額は約八〇〇〇万ドル。中断している金剛山観光では年間約四〇〇〇万ドルの収益をあげていた。それに匹敵する新たな金づるが生まれるのは、もはや時間の問題のようだ。
 この北朝鮮レジャー利権に、統一教会はどう食い込むつもりなのか。

北に貢ぎ続ける教団

 統一教会北朝鮮の因縁は古く、教団草創期にまで遡る。
 平安北道定州郡生まれの文鮮明は、一九四八年、女性信者に対し性的に淫らな儀式を行っていたとして朝鮮労働党当局に拘束され、収容所送りとなるが、朝鮮戦争のどさくさで脱獄。避難先の釜山で布教活動に入り、戦後ソウルで「世界基督教統一神霊会」を立ち上げた。その時掲げた教義が共産主義に勝つという「勝共」だった。六八年には「国際勝共連合」を結成して本格的な勝共運動を始め、日本でも信者を議員秘書として送り込むなど政界に深く入り込んだ。
 一方で、七〇年代から九〇年代はじめにかけ、日本で大理石の壺や多宝塔を使った霊感商法で荒稼ぎをし、現在の経済基盤を築いたとされる。
 だが、共産圏国家の連鎖崩壊が現実となり、「勝共」が色褪せてしまうと、文鮮明は教義を「統一」に修正し始める。北朝鮮との接点を模索するうち、マダム朴の異名を持つ在米韓国人女性実業家の朴敬允(パクキョンユン)と知り合い、水面下の交渉が始まった。こうして実現したのが九一年一一月の文鮮明金日成(キムイルソン)会談で、意気投合した二人は〝義兄弟の契り〟まで結んだ。
 この時の会談で、金主席が「世界的な組織網を持つ文総裁が金剛山開発をしてくれることを望む」と語ったことが、教団が北朝鮮の観光事業をてがけるきっかけとなった。統一教会と朴敬允は、北朝鮮の「アジア太平洋平和委員会」(対韓国戦略を担う労働党統一戦線部傘下の機関)と共同出資して「金剛山国際グループ」を設立し、金剛山観光事業が動き出した。社長に就任したのは朴相権だった。
 九四年一月、文鮮明側近の朴普熙(パクポヒ)が、霊感商法で訴えられた日本の統一教会系企業「ハッピーワールド」幹部を連れ金日成を表敬訪問し、金剛山観光の妥当性調査報告書を提出。二日後、内閣に相当する政務院が、金剛山開発予定地の五〇年間の土地利用権、第三者との合弁権などを金剛山国際グループに与える委任状を出す。この合意のため巨額の裏金が北朝鮮に渡ったと、後に朴敬允は明らかにしている。
 だが、事業は思うように進まなかった。北朝鮮で核開発疑惑が発覚し、クリントン政権が核施設の限定爆撃を計画するなど、観光どころではない。状況に変化が生まれるのは、九八年初めに太陽政策を掲げる金大中政権が発足してからだ。同年六月、韓国最大の財閥、現代グループ創業者の鄭周永が訪朝を果たし、一一月から「現代峨山」による金剛山観光が始まるのである。
 契約を反故にされた統一教会は、それでも北に貢ぎ続けた。同時期に教団の平和自動車が北朝鮮国営の「朝鮮連峰(リョンボン)総会社」と七対三の比率で出資し、南北合弁の「平和自動車総会社」の設立に合意。理事長(社長)に朴相権、副理事長にハッピーワールド幹部の小柳定夫を就任させた。初期五年間の投資額は三億ドルに達し、日米の教団資金がつぎ込まれたと考えられている。
 平安南道南浦市に工場を建設した平和自動車総会社は、イタリアのフィアット社の部品をノックダウン生産で売り出し、〇八年から黒字を出し続けている。乗用車の「フィパラン(口笛)」やミニバスの「三千里」は今まで約一万台を売りさばいた。教団はこの他にも、自動車部品会社や注油所、平壌市内の普通江ホテルなどの現地法人も運営することになる。

冬季五輪前に金剛山観光再開

 昨年末、朴社長はその平和自動車総会社を含むすべての株を、北朝鮮に無償で譲渡してしまう。教団の説明によれば、株譲渡は生前の文鮮明の意思を尊重し、総裁に就任した韓鶴子が朴社長に指示したのだという。
 先述の戦勝節式典で金正恩が朴社長を厚遇した背景には、こうした事情があり、その見返りが馬息嶺スキー場の利権である可能性は十分にある。
 同舟相救う統一教会北朝鮮。彼らの当面の目標は金剛山観光の再開だ。〇八年に韓国人女性観光客が北朝鮮兵士に射殺された事件を機に、観光は中断されたままになっている。続く一〇年に発生した韓国海哨戒艦沈没事件により、韓国政府は開城工業団地を除く南北の人的・物的交流を全面的に中断する「五・二四措置」を発表した。
 二年前の金正日誕生パーティーに朴敬允とともに参加した朴社長は、朝鮮労働党統一戦線部長の金養建(キムヤンゴン)書記に、「現代グループに与えた金剛山観光の独占権を破棄しようと思います。その仕事を手伝ってもらいたい」と相談されていた。だが、同措置が解除されない限り、馬息嶺スキー場どころか金剛山観光にも目途がたたない。
 北朝鮮は九月二五日に予定されていた南北離散家族の再会事業をテコに、同措置を解除させようとしたが、韓国側の消極的な態度に業を煮やし、強硬姿勢に逆戻りしている。挑発は宥和を引き出す常套手段なので、韓国政府が無条件で措置解除のカードを切ることはないが、五輪開催中に軍事挑発でもされたらたまったものではない。遠からず朴槿恵(パククネ)政権は観光再開に踏み切るしかなさそうだ。
 金剛山観光は〇四年に陸路ツアーが始まってから観光客が増え始め、現代峨山の売り上げも年間二〇〇万ドル以上に達したことがあった。統一教会がスキー観光を独占すれば、同規模の利益がもたらされ、瀕死の教団が息を吹き返すことになりかねない。

 

郭錠煥元会長が7月19日、ソウル市内で記者会見し、安倍元首相の殺害事件は教団の逸脱した活動に原因があるとして謝罪した。


 

 

文鮮明から「セウォル号」まで 韓国はキリスト教カルト天国 (『新潮45』2014年9月号)

教祖の変死体

 ソウルオリンピックの開催を翌年に控えた一九八七年八月二九日、ソウル近郊の龍仁(ヨンイン)市にあった工芸品製作会社「五大洋(オデヤン)」で三二体の死体が発見された。カルト宗教の指導者とされる女性社長が女性従業員とともに集団自殺を図ったとのことだが、他殺の疑いがあった。当時AP通信社ソウル支局の写真記者だった筆者は慌てて現場に駆けつけ、死体が置かれていた社員食堂の屋根裏にあがった。三五度を超す暗く密閉された空間に、女性たちの死体は肩を寄せ合うように仰向けに並んでいた。
 五大洋は三〇%を超す高利回りで債権者から金を集める実質的な金融会社で、当時のレートで約三〇億円もの借入金が返済不能に陥っていた。それが自殺の動機とされたが、警察は消えた金の流れを解明せず、事件二日後に遺族の同意もなしに死体を焼却してしまう。軍事政権下だった韓国は、反政府デモに続く大規模な労働争議で騒然としていて、当局は社会不安を助長する事件を嫌った。
 真相は闇に葬られ、民主化の象徴として同年暮れに実施された一六年ぶりの大統領選挙で、全斗煥(チョンドゥファン)大統領の後継者に指名された陸軍出身の盧泰愚(ノテウ)が当選した。その四年後、事件は思わぬ展開をみせる。五大洋の元社員六人が、集団自殺が起きる直前に別の社員四人を宗教的理由で殺害し、死体を埋めたと自首したのだ。
 自首を機に始まった再捜査は難航を極めた。すでに銀行の帳簿は破棄され、五大洋から消えた金の行方は一向につかめなかった。だが、検察は押収資料から不可解な送金を発見する。送金先の「三友トレーディング」を経営するのは、俗に救援派と呼ばれる「キリスト教福音浸礼会」を率いる兪炳彦(ユビョンオン)だった。在任中の全大統領とのパイプも太く、健康食品や船舶事業など、一五企業に二〇〇〇人を超す従業員を有す実業家でもあった。五大洋の社長と従業員も教団の信者だったが、兪と事件との関わりは証明できず、集団自殺の捜査は打ち切られた。その後、詐欺罪で実刑四年を宣告された兪が経営の表舞台に登場することもなくなる。
 あの奇怪な事件から二七年。約三〇〇人もの犠牲者を出したセウォル号の実質的オーナーとして兪が指名手配され、三週間後の六月一二日、南部の順天市の梅畑で腐敗した死体となって発見された。五月二五日夜に潜伏先の別荘を検察に急襲され、隠し部屋に身を潜ませた後、深夜に脱出。一人で付近の山野を逃げ回っていたようだ。遺体発見時、遺留品には複数の手がかりが残されていたにもかかわらず、警察はホームレスと思い込んで見逃してしまい、国立科学捜査研究院のDNA鑑定により、一ヵ月以上過ぎた七月二一日になって本人と確認する大失態を演じた。
 梅畑でほぼ白骨化した状態で見つかった死体は、靴を脱いだまま仰向けに横たわり、遺留品には所持金がなかった。野原を獣のように彷徨いながら側近の助けを待っていたに違いないが、現場付近は捜査員が血眼になって兪を探し回っていた。何度も雨に打たれ、冷え込む夜に低体温症で身動きがとれなくなって死亡したものと思われる。
 不可解なのは、教祖が野垂れ死にするのを待っていたかのように、DNA鑑定後に関係者が次々と自首し、兪の逃亡と教団は無関係であると主張しだすのだ。セウォル号事故の巨額の補償請求が始まろうとするなか、教団の維持に兪は邪魔な存在でしかなかった。

殺人を厭わぬ宗教団体

 京都生まれの兪炳彦は、終戦直後に家族とともに帰国し、中部の大邱(テグ)市で育った。六〇年代初め、所属する地元の宗派組織から牧師職を剥奪された権信燦(クォンシンチャン)とともに活動を始める。布教対象に選んだのは、サムスン財閥の母体となる「第一毛織」の女工たちだったと言われる。サムスン創業者の李秉喆(イビョンチョル)は、大邱で設立した同社の女工たちが起こしたストライキに憤慨し、大量解雇を断行した。この事件を機に非(無)労組経営がサムスンの社是となるのだが、路頭に迷った女工たちの受け皿となって規模を拡大させたのが救援派だった。
 兪は巧みな弁舌で「事業こそ教会であり、神に仕えることである」と唱え、献金で企業買収の資金を集め、信者に低賃金労働を強いて利益をあげていった。著名な芸能人を広告塔にして信者を大幅に増やし、ピーク時に一〇万人を超す教団の指導者となった兪は、自らイエスと名乗り始めるようになる。
 そんな兪の悪行を追跡していた人物が一人いた。カルトに警鐘を鳴らし続けた「国際宗教問題研究所」の卓明煥(タクミョンファン)。九〇年代初め、韓国最大のカルトだった統一教会に孤立無援で立ち向かい、歌手の桜田淳子やオリンピック新体操選手の山崎浩子の入信騒ぎで社会問題化した時には、彼の助言が日本の統一教会対策に役立った。そんな卓を一躍有名にしたのが他ならぬ五大洋事件である。八七年の事件発生直後から犯行の背後に救援派があると主張し、警察の捜査に疑問を投げかけた。彼は九四年二月に自宅前で殺害されるのだが、遺書ともなった『世称・救援派の正体』にはこう記されていた。
<刻々と身辺に危険が迫るなか、なにがあろうと私には自殺を選ぶなんの理由もなく、もし身辺に異常あれば、セモ(兪の会社)の兪炳彦の仕業であることを明らかにし、その罪状をここに付す。>
 集団自殺四年後の信者らの不可解な自首は、他殺の疑いを提起し続けていた卓の追及をかわすための工作だったと考えられている。だが、犯行当時に兪は服役中で、犯人は彼に恨みをもつ別のカルト信者だったことが判明する。
 父の遺志を受け継ぎカルト宗教の調査活動を続ける月刊『現代宗教』の卓志元(タクチウォン)所長に事情を尋ねた。
「逮捕されたのは大聲教会の朴潤植(パクジュンシク)牧師の運転手で、後に死刑を宣告されましたが、私たち遺族は彼に手引きをした真犯人は別にいると考え、無期懲役減刑する嘆願書を提出しました。疑惑の渦中にあった朴潤植という人は陸軍少領(少佐)出身で、信者も予備役の人が多い。彼自身、教会に軍服姿で現れ、信者が敬礼したりする。犯人も元特殊部隊員でした。“お言葉の父”と名乗って自らを神格化し、九一年にキリスト教団体の総会で異端と糾弾されています」
 その時の異端決議文に、こんな記述がある。
<イブが蛇(サタン)と性行為を結んでカインを産んだという統一教会に似た性的モチーフを持ち、堕落した後に人間に月経が生まれ、月経がある女性の立場から脱出させるのが救援であるとした。>
 本人は否定しているが、朴はセックスと反共を教義化した統一教会の元信者だった可能性がある。こうした極右のカルトは少なくなく、駐韓日本大使館前の反日デモなどに信者が動員されることもあるという。

六人に一人がカルト信者

 韓国ではカルトを一般的に「似而非(サイビ)」と呼び、正当なキリスト教から外れているという意味では「異端」や「小宗派」などと呼ばれる。キリスト教の信者数はプロテスタント(改新教/基督教)とカトリック(天主教)合わせて全人口の約二八%に当たる一三八〇万人。プロテスタントはさらに教派により監理教会(メソジスト)や長老派教会(プレスビテリアン)などに分かれるが、韓国でもっとも大きな教派団体は「大韓イエス教長老会」の〝合同〟(保守派)と〝統合〟(リベラル派)の二派だ。また、単一教会で世界最大規模となる信者数約八〇万人の「汝矣島(ヨイド)純福音教会」のように、単独で教団を形成する場合もある。
 異端判定はこうした教派や教会団体で個別に行われる。大韓イエス教長老会(統合)が運営する「異端似而非対策委員会」の担当官によると、同教派が異端に指定した教会や教団は現時点で六〇ある。卓志元所長の説明でも、自らを神と名乗る教祖が二〇人、再臨のイエスであると主張する者が五〇人もいる。
 なぜ韓国のプロテスタント教会にはカルトが蔓延るのか。ソウル郊外の九里(クリ)市を拠点にカルト対策に取り組む「韓国基督教異端相談所」の申鉉郁(シンヒョンウク)所長を訪ねた。
「日本では統一教会が知られているでしょうが、韓国人の信者数は一万五〇〇〇人ほどに落ち込み、日本人信者の半分にもなりません。一〇万人を超える勢いのある巨大カルト教団は、海外からきたエホバの証人などを除けば四派に絞られます。ハナニム教会、新天地、万民中央教会、そして救援派です。救援派には三つの勢力があり、兪炳彦のキリスト教福音浸礼会には二万人います。この四派で合わせて五〇万人。この他にも中小の様々なカルトがあり、プロテスタント系の異端信者数は少なく見積もって一五〇万人になるでしょう。プロテスタントの人口が九〇〇万人近くになるので、六人に一人がカルト信者という尋常ではない数字です。その実態は、信教の自由という名のもとに横行する合法的な詐欺です。
 プロテスタントは日本の植民地支配と朝鮮戦争後の焼け野原から始まった高度経済成長期に合わせて、韓国で爆発的に広まりました。教皇を頂点とした伝統や組織を重んじるカトリックとは異なり、プロテスタント教会には神以外に主がいません。信者の増加は金に直結するため、きちんとした教義の裏付けもないまま、勝手な聖書解釈が横行するようになったのです。すべてのカルトが教祖型の集団で、自らがこの時代の救援者であり、再臨のイエスだと言い張り、金儲けの手段として教義が書きなおされました」
 その最たる例が統一教会。二年前に教祖の文鮮明(ムンソンミョン)が死に、かつての勢いはなくなったとはいえ、韓国のカルトの源流となり、日本に及ぼした被害も計り知れない。だが、セックスを教義に結びつけた文の邪悪な発想は、驚くほど幼稚なものだった。サタンである蛇の誘惑で禁断の果実を口にしたイブが、アダムとともにエデンの園を追放されるという旧約聖書『創世記』の話を曲解し、イブがサタンと性交したため人は原罪をかかえ、イエスでさえ救えなかった人類を、東方に再臨した文が救うというおとぎ話のような内容だ。汚れた女性が教祖の文と性交することで清められる「血分け」の儀式が、あの合同結婚式へと発展した。

乱立するメシアたち

 日本で「摂理」として知られる「JMS」の鄭明析(チョンミョンソク)も、統一教会で学び、女性信者に強姦を繰り返した末に摘発され、懲役一〇年の実刑判決を下されている。そんな宗教を信じるほうにも問題があるが、どうやら血分けの教義にはカルト信者たちを惹きつける魔力があるようだ。そのルーツは一九二〇年代に遡る。
 現在の北朝鮮東部の元山(ウォンサン)にあった教会に通う劉明花(リュミョンファ)という女が、自分の体にイエスが入り込んだと主張し、各地を訪ね歩いてイエスが降臨する「降神劇」を演じた。朝鮮には古くから巫堂(ムーダン)と呼ばれる女のシャーマンがいて、「クッ」という祭儀を通して神を憑依させ、お告げをする土着の信仰がある。シャーマニズムキリスト教を合体させた新しい占いは、人々に難なく受け入れられた。こうして土着化したキリスト教を、太平洋戦争中に教義にしたのが「イスラエル修道院」を設立した金百文(キムベクムン)なる人物で、文はここで見聞きした血分けの教義を真似たと言われる。
 文と共にイスラエル修道院に通い、五〇年代末から八〇年代初めにかけ巨大カルト教団を築き上げた男がもう一人いる。「天父教」教祖の朴泰善(パクテソン)。やはり血分けによる混淫が社会問題化したが、信者たちに共同生活をさせる大規模な「信仰村」を各地に作り、最盛期には九〇万人もの信者の頂点に立つ神として君臨する。この統一教会と天父教の二大カルトから枝分かれして、無数の神や再臨のイエスが韓国に登場することになる。
 なかでも急速に勢力を拡大しているのが新天地という教団だ。正式名を「新天地イエス教証拠幕屋聖殿」といい、すでに日本にも進出しているようだ。老人、生活困窮者、障害者など社会的弱者は相手にせず、主婦や学生を標的にしてきたため、離婚や家出の被害が続出。一般の教会に潜入した覆面信者が教会をまるごと乗っ取る「山移し」に教派団体は警戒を強めている。
 新天地の被害者組織の代表でもある前出の申所長が語る。
「教祖は李萬熙(イマンヒ)といい、天父教の信仰村に住みついた元信者でした。天父教の力が弱まると教団から独立開業する教祖が乱立し、彼も渡り鳥のようについていきます。教祖らは期限を切った終末論を唱えて危機感を煽るのですが、期限日が過ぎてもなにごとも起きないので、信者の移動が繰り返されるのです。李萬熙も最後に仕えた教祖が唱えた八〇年三月一四日の終末日に狙いを定め、新天地を創設しました。彼らの世界にはギャンブルやアルコール中毒に似た教義中毒というものがあって、一度洗脳され救われた思いを経験すると、他のことは考えられなくなります」
 教団名にある幕屋聖殿とは、新約聖書の「ヨハネの黙示録」にある天国を象徴する場所を指し、新天地を信じるものだけがそこに導かれるのだという。黙示録七章に一二支族の一四万四〇〇〇人だけが神に救われるという予言が登場するが、ほとんどのカルトがこの話に便乗し、同じ数の信者数を獲得しようとする。新天地の信者数は現在約一三万人。目標達成が目前に迫ったため、信者認定の基準を厳しくしだした。
 新天地の本拠地は政府総合庁舎がある京畿道果川(クァチョン)市にある。だが、本殿はなく、同市のショッピングセンターの九階を間借りしていた。実際に立ち寄ってみると、机も椅子もない広いフロアーに信者たちが座りこんで礼拝をしていた。新天地は同市に聖地を建設するため巨額の献金を募ってきたが、建設が始まる気配はなく、教団ぐるみの詐欺だと指摘する声もある。